IJET-23 基調講演:感性のマツダロードスター

マツダロードスターは世界で最も多く生産されている2人乗りスポーツカーである。その商品コンセプトは乗馬の世界で言われる‘人馬一体’である。それは日本の神技、流鏑馬において馬と射手が、あたかも心を交わしたかの如く最高のパフォーマンスを発揮する心理状態を言う。ロードスターはマシン(スポーツカー)とドライバーの間にもそのような‘人馬一体’を最新の工学的手法を用いて具現化しようとしたものである。感性‘人馬一体’の具現化は‘思い通りに操れるクルマの楽しさ’の商品化である。

明治時代に西洋文化の渡来以降、感性と言う日本語は適切な英訳がないことは周知である。Sensibilityと訳された時期もあったが、現代の英語圏で使われているものと意味が異なっている。ロータリーエンジンの開発で有名な元マツダ社長、山本健一さんがSAEで感性工学の重要性を発信したのが1986年である。その中で感性工学をKANSEI Engineeringと英訳したものが現代の工学界で公式に使われている。時を同じくして生まれたロードスターの商品コンセプト‘人馬一体’も日本人の感性に合った英訳が無く、英文ではJINBA-ITTAIと記している。3代目新型ロードスターの開発においてこの‘人馬一体’を如何に具現化し世界市場に導入したか、クルマに対する各国の文化、感性の違いを交えて紹介する。