翻訳の可視性:翻訳学(Translation Studies)の視点から

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2023年6月24日 午後 4時30分

翻訳学(Translation Studies)では、翻訳の可視性というとLawrence Venuti(1995/2018, 1998)による「翻訳者の不可視性(Translator’s invisibility)」の議論がよく知られている。彼の議論の本来の意図は、翻訳をめぐる状況の「脱中心化」――彼が考察対象としたアメリカの翻訳出版方針を問題視すること――であり、invisibilityと関連して論じられるforeignisation とdomesticationという二種類の翻訳方略についても、日本の文脈に即した「脱中心化」を考える必要があるが、日本の文芸翻訳の場合、翻訳は不可視ではない。また、翻訳学では近年、翻訳の倫理としてreflexivity, responsibility, accountabilityが重要視されるようになっており(Floros 2021)、そのためには翻訳者も不可視な存在であるべきではない。

 本発表では1)Venutiの議論の日本への応用可能性と、2)翻訳者の可視性の例を通じて、アカデミックの視点から翻訳の可視性の重要性を考えたい。