会議通訳とサイト・トランスレーション

サイト・トランスレーション(以下サイトラ)は、書記テキストを音声テキストに訳出する作業であり、通訳と翻訳の両方の特徴を併せ持つハイブリッドとして表現される。通訳の現場においては頻繁に使用されるテクニックであり、会議通訳、コミュニティ通訳(リーガル・医療分野)などでも使用される重要なスキルである。特に会議通訳においては、事前に原稿やスライドが提供される場合があり、同時通訳をサイトラで行う機会も多い。その場合、特に精度の高い同時通訳が求められるが、情報入力が視覚(書記)と聴覚(音声)の両方となり、同時に言語変換(訳出)を行わなくてはならず、非常に認知負荷の高い作業となる。また、聴解力だけでなく高い読解力も求められる高度なスキルである。しかし、一般にサイトラの重要性や難度は看過されやすく、研究分野としても未知の領域が多い。本論では、先行研究に基づきサイトラの定義や重要性を明確化すると同時に、サイトラを行う上での課題を提示する。更に、会議通訳の現場におけるサイトラの実践的な有用性を例示し、サイトラに必要な能力、サイトラ能力を向上させるための訓練法について検討する。